はじめに:飲食店の就業規則が経営を守る理由
「うちの店にも就業規則って必要なの?」と迷う飲食店経営者は少なくありません。アルバイトの遅刻や無断欠勤、SNSトラブルなど、飲食店ならではの労務問題は就業規則で予防できます。
この記事では、作成義務の基準から飲食店特有の記載事項、よくある労務トラブルへの対策までをわかりやすく解説します。就業規則は単なる書類ではなく、店舗運営を安定させ経営者と従業員の双方を守る仕組みだと理解いただくことがゴールです。
飲食店に就業規則は必要?作成・届出義務の基準
就業規則の要否は、まず法律上の作成・届出義務の有無から確認します。飲食店はアルバイトを多く抱えるため、知らないうちに義務が発生していることも珍しくありません。ここでは基準となる考え方を整理します。
そもそも就業規則とは何か
就業規則とは、労働時間や賃金、休日、退職、懲戒など、職場の労働条件やルールをまとめた文書です。従業員が働くうえでの基準を明確にし、店舗運営の土台となります。
ルールが明文化されていないと、口頭での説明にとどまり「言った・言わない」のトラブルを招きがちです。就業規則があれば、公平で説明しやすい労務管理が実現します。
常時10人以上で発生する作成・届出義務
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に就業規則の作成・届出義務があると定められています。この「事業場」とは会社全体ではなく、店舗などの単位で判断される点に注意が必要です。
「常時」とは、一時的な繁忙期の増員ではなく、通常の状態で常に10人以上を雇っている状態を指します。複数店舗を展開している場合は、各店舗ごとに人数を判断します。
パート・アルバイトも人数に含まれる点に注意
重要なのは、この10人にはパートやアルバイトも含まれるということです。正社員だけを数えて「うちは対象外」と考えるのは誤りといえます。
多くのアルバイトを抱える居酒屋やバーでは、気づかないうちに義務が発生しているケースが少なくありません。まずは自店の雇用形態別の人数を正確に把握することから始めましょう。
10人未満でも作成をおすすめする理由
従業員が10人未満で法的義務がない飲食店でも、就業規則を任意で作成しておくメリットは大きいものです。就業規則があれば、遅刻や無断欠勤、勤務態度への対応も規則にもとづいて公平に行えます。
また、助成金の申請要件として就業規則の整備が求められるケースも多くあります。将来的に助成金の活用や多店舗展開を考えるなら、早めの整備が結果的に運営の安定につながります。
就業規則に記載すべき内容
就業規則には、必ず記載すべき事項と、定める場合に記載する事項があります。この区分を理解しておくと、抜け漏れのない規則を作成できます。飲食店特有の事情を踏まえて整理しましょう。
必ず記載する絶対的必要記載事項
絶対的必要記載事項は、就業規則に必ず盛り込まなければならない内容です。労働時間や賃金など、労働条件の根幹となる項目が該当します。
具体的には、始業・終業時刻、休憩、休日、休暇、賃金の計算・支払方法、昇給、退職・解雇に関する事項です。これらが欠けていると就業規則として成立しないため、必ず定めましょう。
定める場合に記載する相対的必要記載事項
相対的必要記載事項は、その制度を設ける場合に記載が必要になる項目です。主な内容を整理すると次のとおりです。
| 区分 | 主な内容 |
|---|
| 絶対的記載事項 | 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇、賃金の計算・支払方法、昇給、退職・解雇 |
| 相対的記載事項 | 退職手当、賞与、臨時の賃金、食費・作業用品の負担、表彰・制裁、その他全労働者に適用される事項 |
飲食店では、まかないの食費負担や制服の取り扱い、懲戒(制裁)などが相対的記載事項に該当します。定めておかないと運用の根拠がなくなるため、店舗の実態に合わせて盛り込むことが大切です。
正社員とアルバイトで規定を分ける考え方
飲食店には正社員、パート、アルバイト、店長など、さまざまな雇用形態のスタッフが働いています。正社員向けの就業規則をそのままパート・アルバイトに適用すると、賞与や退職金などで実態と合わない部分が生じます。
そのため、パート・アルバイト用の別規程を作成しておくと、待遇の違いを明確にでき、トラブル防止に役立ちます。誰にどの規則が適用されるのかを明文化しておくことで、公平で説明しやすい労務管理が実現します。
飲食店特有の労務トラブルと就業規則での対策
飲食店には、他業種にはない労務トラブルが数多く存在します。シフト勤務やまかない、SNS投稿などは、あらかじめ就業規則で備えておくことが有効です。ここでは代表的な項目を見ていきます。
シフト勤務・変形労働時間制と残業代のルール
飲食店の多くはシフト制で運営されており、労働時間の規定は特に慎重に定める必要があります。月末月初や週末に業務が集中する店舗では、変形労働時間制が相性のよい仕組みといえます。
変形労働時間制は1か月単位や1年単位で労働時間を調整できる制度ですが、導入には就業規則への明記や労使協定が必要です。休憩についても、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上を与えなければなりません。
シフトの作成・変更のルールや休日の付与方法も曖昧にせず定めておきましょう。制度を正しく運用できていないと未払い残業のリスクにつながります。
店長の役職と「名ばかり管理職」リスク
店長など管理的立場のスタッフについては、労働基準法上の「管理監督者」に該当するかどうかを慎重に判断する必要があります。安易に「店長だから残業代は不要」と扱うのは危険です。
実態が伴わないまま管理監督者として扱うと、いわゆる名ばかり管理職として、後に未払い残業を請求されるケースがあります。役職と労働時間管理の関係を整理しておきましょう。
遅刻・無断欠勤・当日欠勤への対応ルール
飲食店の現場では、アルバイトの遅刻や無断欠勤、いわゆる「バックレ」による突然の退職といった問題が起きがちです。人手が限られる店舗では、こうしたトラブルが営業に直接影響します。
対応の根拠となるのが就業規則の規定です。どのような行為が問題となるかを定めておくことで、その場の感情ではなく規則にもとづいた冷静な対応ができます。
無断欠勤が続いた場合の自然退職の扱いなども規定しておくと、連絡が取れなくなったスタッフへの対応がスムーズになります。予防と対応の両面から備えておきましょう。
まかない・制服・SNS投稿・副業の取り扱い
まかないを提供する場合、費用を給与から控除するのか無償とするのかを就業規則で明確にしておきましょう。現物支給が一定額を超えると課税対象になることもあり、税務・労務の両面で整理が必要です。制服については貸与か自己負担か、退職時の返却ルールも定めておきます。
また、厨房での悪ふざけ動画や来店客の情報漏えいなど、従業員によるSNSへの不適切投稿は店舗の信用を大きく損ないます。業務中の写真・動画撮影の禁止や、業務上知り得た情報の投稿禁止を明確に定めておくことが有効です。
副業や掛け持ちアルバイトについては、一律禁止が現実的でない場合もあります。許可制を採用して事前申告を義務づければ、労働時間の通算や情報漏えいといった問題を管理しやすくなります。
懲戒処分の基準を明確にする
懲戒処分は、就業規則に規定がなければ原則として行えません。譴責・減給・出勤停止・解雇など段階的な処分を定め、あわせて適正な手続きも明記しておくことが大切です。
禁止事項に違反した場合は懲戒の対象となることを明記しておくと抑止力になります。入社時にルールを説明し、誓約書を取得するなどの運用も効果的です。
飲食店で就業規則を整備するメリット
就業規則を整えることは、義務への対応にとどまらず、店舗運営にさまざまなメリットをもたらします。トラブル予防、人材の定着、助成金の活用という3つの観点から見ていきましょう。
労務トラブルの予防と紛争リスクの低減
就業規則が整っていない飲食店では、退職したアルバイトからの未払い残業代の請求や、無断欠勤者への処分がうまくできない問題、SNS投稿による炎上などが起きやすくなります。
就業規則を整備しておけば、あらかじめ定めたルールにもとづいて冷静に対応でき、トラブルの拡大を防げます。場当たり的な対応を避けられる点が大きなメリットです。
人材の定着・採用力アップにつながる
就業規則によって働くうえでの基準が明確になると、従業員は安心して働ける環境を得られます。待遇やルールが明確な職場は、応募者にとっても魅力的に映ります。
公平なルールにもとづく運用は、職場の信頼関係の向上にもつながります。結果として人材の定着や採用力アップに寄与します。
助成金申請の要件になるケースがある
助成金の申請要件として、就業規則の整備が求められるケースは多くあります。規則がないために申請できない、という事態は避けたいところです。
将来的に助成金の活用を検討するなら、早めに就業規則を整えておくことが有利に働きます。開業初期からの準備が、後の選択肢を広げます。
就業規則の作成手順とテンプレート利用の注意点
就業規則は、作成して終わりではなく、届出や周知まで正しく行ってはじめて機能します。ここでは基本的な作成手順と、ひな型利用の注意点を確認しましょう。
ステップ1:現状の労働条件と運用を整理する
最初に、自店の労働時間や賃金、休日、まかない・制服などの待遇といった、現状の労働条件と運用実態を整理します。実際の運用とかけ離れた規則は、かえってトラブルの原因になります。
雇用形態別の人数やシフトの組み方も洗い出しておくと、規定に反映しやすくなります。まずは現状把握が出発点です。
ステップ2:条文を作成し従業員の意見を聴取する
整理した内容をもとに条文を作成します。作成後は、従業員代表からの意見聴取が必須の手続きとなり、その意見を記した意見書を用意します。
意見聴取は内容を変更する際にも同様に求められます。手続きを省略すると届出の要件を満たせないため注意が必要です。
ステップ3:労働基準監督署へ届出・周知する
常時10人以上の事業場では、就業規則本体に意見書を添付し、所轄の労働基準監督署へ届け出ます。作成しただけで届出を怠ると、義務を果たしたことにはなりません。
さらに重要なのが周知義務です。店舗内の見やすい場所への掲示や書面の交付などで、全従業員がいつでも確認できる状態にしておかなければ、就業規則の効力が認められないおそれがあります。
厚生労働省モデル就業規則をそのまま使う危険性
就業規則は、ひな型やモデル就業規則をそのまま使うと自店の実態に合わず、かえってトラブルの原因になることがあります。シフト制やまかない、深夜手当など飲食店特有の事情が反映されないためです。
飲食店の実情に即した規則を作るには、業界に詳しい社労士のサポートが有効です。自店の運用に合わせたカスタマイズが欠かせません。
大阪の飲食店専門社労士に依頼するメリット
就業規則の作成や見直しは、飲食業界に精通した社労士に依頼することで、実務に即した内容に仕上がります。ここでは専門社労士に依頼するメリットを紹介します。
飲食業界の現場を理解した実務的なサポート
飲食業界に精通した社労士であれば、現場で起きやすいトラブルを想定した実践的な規則を提案できます。単なる手続き代行ではなく、店舗運営の安定につながる課題解決型のサポートが受けられます。
Wing社会保険労務士・行政書士事務所は、関西で多店舗展開する食品会社での現場・管理経験を持ち、実務に即したアドバイスができる点が強みです。
行政書士×社労士で許可申請から労務まで一括対応
Wing社会保険労務士・行政書士事務所は、行政書士と社労士の両資格で、飲食店の許可申請から労務管理までを一つの窓口で対応しています。窓口が一本化できるため、経営者の手間を大きく減らせます。
外国人雇用の就労ビザ申請にも対応できるため、飲食店特有の人材課題までまとめて相談できるのも特長です。
開業後も伴走する顧問契約という選択肢
顧問契約を結べば、法改正への対応や日々の労務相談、助成金の活用まで継続的にサポートを受けられます。開業から運営まで長期的に伴走してくれる存在は、忙しい飲食店経営者にとって心強い味方です。
大阪の難波・梅田・天王寺周辺を中心に、初回相談は無料で対応しています。電話・メール・LINE・オンライン・訪問と多様な相談手段を用意しています。
まとめ:就業規則で安定した店舗運営を
就業規則は、飲食店を労務トラブルから守り、安定した店舗運営を支える大切な仕組みです。常時10人以上で作成・届出義務が生じますが、それ未満の店舗でも整備しておく価値は十分にあります。
シフト制やまかない、SNS、懲戒など飲食店ならではの項目を盛り込むことで、予防効果はさらに高まります。就業規則の作成や見直し、日々の労務でお困りの際は、初回相談無料のWing社会保険労務士・行政書士事務所へお気軽にご相談ください。