※本記事は、社会保険労務士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景
中央区は大阪市の中心部に位置し、観光需要とビジネス需要が重なる特殊な環境です。昼間はオフィスワーカーがランチ需要を支え、夜間は観光客や買い物帰りの顧客が訪れるため、飲食店には常に一定の需要があります。しかし、需要が高い一方で労働環境は厳しく、従業員の離職率が高い傾向にあります。
この居酒屋でも、出産を機に退職する従業員が相次ぎ、過去3年間で子育てを理由に5名のスタッフを失いました。シフト管理は常に綱渡りで、経営者や店長が急な欠員対応に追われることが常態化していました。顧客からも「スタッフの顔ぶれが頻繁に変わる」といった不安の声が寄せられ、接客の質の安定性が課題となっていました。経営者は、人材定着のためには制度導入が不可欠だと判断し、両立支援等助成金を活用した改善に踏み切りました。
社労士のポイント解説
まず現状を整理し、申請に必要なエビデンスを揃えました。退職者数、離職率、シフト調整にかかる管理者の時間などをデータ化し、経営上の影響を明確にしました。特に「過去3年で5名が育児を理由に離職」「シフト調整業務に月20時間以上を費やしている」という数値は、制度導入の必要性を裏付ける根拠となりました。
導入した施策は、育児休業取得支援、短時間勤務制度、柔軟な時差出勤制度の3点です。育児休業は対象者に個別説明を行い、2025年10月から義務化される「個別周知・意向確認」にも先行して対応しました。短時間勤務制度は子どもが3歳になるまで選択可能とし、復帰後の不安を軽減しました。さらに、法改正により拡大された看護休暇を就業規則に反映し、小学校3年生までの子どもを対象に学級閉鎖や入学行事などにも対応できるようにしました。
助成金の具体的な支給額も重要です。本ケースでは、正社員男性が出生時育児休業を取得したことで「出生時両立支援コース」として20万円を受給しました。加えて、短時間勤務制度と時差出勤制度を導入し実際に利用されたことから「柔軟な働き方選択制度コース」として20万円を追加で受給しました。総額40万円が支給され、制度整備に要したコストの大部分をカバーすることができました。
さらに、3歳未満の子を育てる従業員へのテレワーク導入努力義務に対応し、在宅でできる発注業務や勤怠管理業務を切り出す仕組みを導入しました。これにより、制度は単なる紙上のものではなく、実際の現場で効果を発揮する仕組みとなりました。
解決イメージ
制度導入後、育児休業を取得した従業員は安心して復職でき、短時間勤務を活用して働き続けることができました。従来なら退職していた優秀な人材を維持できたことは大きな成果です。従業員全体の離職率は20％から8％に低下し、安定した人材確保が実現しました。
従業員からは「子育てと仕事を両立できる安心感がある」「復帰後も無理なく働ける」との声が寄せられました。顧客からも「スタッフが安定していて安心」「接客の雰囲気が落ち着いて利用しやすい」といった評価が得られ、リピート率が向上しました。
また、シフト管理アプリ導入により管理者の業務負担が軽減し、月20時間以上かかっていたシフト調整が10時間以下に短縮されました。経営者は経営戦略や新規顧客獲得に集中でき、結果的に売上増加につながりました。
このように、大阪市中央区における両立支援等助成金の活用は、従業員定着率改善、顧客満足度向上、経営効率化を同時に実現しました。最新の育児・介護休業法改正に適合させながら助成金を受給したことにより、持続可能な働き方改革が実現した好例といえます。
