※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
「いつか自分だけの落ち着いたバーを持ちたい」。そんな長年の夢を形にすべく、大阪市旭区で理想的な物件が見つかり、バーの開業を計画されたのが今回の方です。過去にはカフェバーでの勤務経験もあり、接客や店舗運営の基本には慣れていたものの、経営者として店舗をゼロから立ち上げるのは初めてとのことでした。
特にこだわっていたのは「照明」。来店されるお客様が静かにお酒を楽しめる空間にしたいという意向から、店内の照明はすべて間接照明やキャンドルライトにする構想でした。開業に向けて準備を進める中で、SNSの投稿で「照明が暗すぎる店は許可が必要になる場合がある」との情報を目にし、不安を感じたことがご相談のきっかけでした。
物件の契約自体はすでに完了しており、内装工事のプランも進んでいる段階でしたが、もしも許可が必要で取得できなかった場合、オープンが遅れるどころか、営業自体が難しくなる可能性があるとの懸念がありました。そうした背景から「今からでも間に合うか?」「そもそも許可が本当に必要か?」という点を明確にしてほしいというご希望がありました。
行政書士のポイント解説
飲食店の開業においては、通常は保健所の飲食店営業許可だけで済むと思われがちです。しかし、照度が一定基準を下回る店舗については、風営法に基づく風俗営業2号許可が必要になるケースがあります。
具体的には、営業時の客室の平均照度が10ルクス以下であれば、たとえ接待や遊興行為がなくても、風俗営業の対象とされることがあります。これは、外部からの視認性の低下や、店内の活動の透明性に影響を及ぼすことから法的に管理対象となっているのです。
今回のケースでは、店舗の設計資料とヒアリング内容をもとに、実際に現地で照度を測定しました。その結果、営業想定時間における照度はおおむね8ルクス。基準値を明確に下回っており、風営法第2条第1項第2号に該当する可能性が高いと判断しました。
幸い、店舗の立地が商業地域であり、風俗営業許可に必要な保全対象施設との距離要件もクリアしていたため、法的には問題なく申請できる状況でした。そこで、すぐに以下の対応を進めました。
1つ目は、申請に必要な図面や営業内容説明書などの資料整備です。図面については建物の構造だけでなく、照明設備の位置や明るさの仕様まで明記したものを用意し、警察署との相談がスムーズに進むように準備しました。
2つ目は、所轄警察署への事前相談です。初めての開業であり、不安もあるとのことでしたので、同行のうえで店舗の設計意図や運営方針について丁寧に説明し、正式な申請前に内容を確認してもらうことができました。
3つ目は、申請後のスケジュール調整です。風俗営業許可の審査には平均で1か月程度を要します。工事スケジュールや保健所への申請タイミングを考慮し、オープンに支障が出ないように逆算しながら段取りを整えました。
結果として、提出から29日で無事に許可が交付され、その後、飲食店営業許可も速やかに取得。予定通りのオープンにこぎつけることができました。
解決イメージ
このケースから見えてくるのは、開業の早い段階で「照度」という専門的な視点を持ち込めたことが非常に大きな成功要因だったということです。実際、照度の問題は非常に微妙で、10ルクス以下かどうかは見た目だけでは判断がつきにくいことがほとんどです。
もし開業準備が進んだ後に照度基準の存在を知っていたとしたら、内装の大幅なやり直しや、照明プランの見直しが必要になっていた可能性もあります。さらには、無許可営業とみなされ、是正命令や罰則を受けるリスクも否定できません。
今回のように、設計段階から専門家と連携を取り、事前調査・照度測定・申請書類の準備・警察署との調整を一貫して行ったことで、「雰囲気のある空間づくり」と「法令遵守」の両立を実現できたことは非常に意義のあるポイントです。
また、接待やカラオケなどを提供しない「純粋な空間提供型」のバーであっても、照度によっては規制対象になるという点は、今後開業を考える多くの方にとって見逃せない重要事項です。
店舗のコンセプトを保ちつつ、スムーズかつ合法的に開業したい方は、ぜひ照度と風俗営業許可の関係について、早い段階から専門家に相談することをお勧めします。