※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
今回のクライアント様は、飲食業での勤務経験を活かし、かねてより思い描いていたバーの開業に向けて物件を契約された直後に当事務所へご相談に来られました。店舗の場所は浪速区元町。難波や心斎橋といった繁華街にもほど近い立地でありながら、やや落ち着いた雰囲気を持つエリアで、店舗としては約18㎡のこぢんまりとしたバーカウンター形式の構造です。
開業に向けたコンセプトは明確で、「接待や賑やかな遊興行為は一切なく、静かに過ごせる大人の空間をつくりたい」とのことでした。照明についても、一般的な明るさではなく、キャンドル風の間接照明をメインにした低照度の内装を希望されており、すでに内装業者との打合せも進んでいる状況でした。
しかし、照明設計の図面を拝見したところ、店内全体の平均照度が明らかに10ルクスを下回る設計であることが読み取れました。クライアント様ご本人は「接待もカラオケもやらないから、飲食店営業許可だけで問題ない」と思い込まれていたようですが、風営法では「照度のみ」で営業類型を判断されるため、風俗営業2号に該当する可能性が浮上しました。
そこで、実際にルクスメーターを使用し、現地で照度測定を行いました。結果は想定どおり平均8ルクス前後で、風営法第2条第1項第2号に定められた「照度10ルクス以下」の営業に該当する状態でした。この時点で、風俗営業2号許可の取得が必須であると判断しました。
行政書士のポイント解説
風俗営業2号許可は、接待や遊興行為を伴わなくても、「照度が10ルクス以下で営業される飲食店」に対して適用されます。たとえ一般的な飲食店形態であっても、照明の演出や内装コンセプトによっては規制の対象となるため、実態と制度とのギャップに気づかずに開業してしまう方が後を絶ちません。
今回のケースでは、まず店舗の所在地が営業可能な地域であるかを確認しました。浪速区元町の該当物件は商業地域に指定されており、用途地域上の問題はありませんでした。また、100メートル圏内に学校や病院、図書館といった保全対象施設がないことも現地調査により確認できました。
次に、必要な書類一式の作成に着手しました。営業所の平面図、客室内の照度分布図、音響設備配置図、換気経路の説明、そして営業内容の詳細を記した説明書類などを作成し、風営法上の要件を網羅的に整えました。重要なのは、「接待」や「遊興行為」がないことを、主観的な説明ではなく客観的な資料で示すことです。
加えて、警察署への事前相談にも同行しました。警察との面談では、照度が低い理由が内装演出によるものであること、営業内容が風俗営業1号に該当しないこと、従業員の接客スタイルが一般的な飲食店の域を出ないことを一つずつ丁寧に説明しました。
その場でいくつかの追加説明資料を求められましたが、即座に対応。事前相談の流れをスムーズに進めることで、正式な申請受理後は順調に審査が進み、約30日後に風俗営業2号許可が交付されました。
解決イメージ
このケースからわかるように、風俗営業許可の必要性は「業態」や「職種名」ではなく、あくまで営業実態と照度のような物理的条件に基づいて判断されます。つまり、キャバクラでもガールズバーでもない、ごく普通のバーであっても、照明の設定だけで風営法の対象となるのです。
浪速区のように繁華街の近くに位置するエリアでは、警察による風俗営業に対する監視も比較的厳しい傾向があり、無許可営業が発覚した場合には厳しい処分が下される可能性も否定できません。そうした地域性を踏まえた上で、営業形態の法的整理と許可取得の判断を早い段階で行うことが、リスク回避につながります。
今回のように、物件契約から内装設計までをある程度終えてからご相談いただいた場合でも、照度測定と立地確認、図面作成から警察対応までをスピーディーに行うことで、開業スケジュールに支障をきたすことなく許可を取得することが可能です。
一方で、仮に照度が規制値を超えていた場合、あるいは用途地域や保全対象施設との距離に問題がある場合は、照明設計の見直しや物件選定のやり直しが必要になることもあります。だからこそ、少しでも「照明を暗くしたい」「落ち着いた雰囲気をつくりたい」とお考えの方は、照度に関する法的判断を早めに行うことが重要なのです。
今回のクライアント様のように、「飲食店営業許可だけで足りるはず」と思い込んでいたところから一転して、風営法の申請まで必要となったケースは決して珍しくありません。むしろ、店づくりにこだわる方ほど、風俗営業2号との関係は避けて通れないテーマだといえます。
開業に向けた理想の空間づくりを、安心とともに実現するためには、制度と現実のズレを正しく把握し、それに合わせた対応をとることが欠かせません。