※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
今回のご相談者様は、不動産管理会社を経営されている40代男性で、自社保有ビルの1階区画を有効活用したいとの意向から、ラウンジバーの出店を検討されていました。本業はあくまで不動産業であり、副業的な意味合いでのバー開業ではありましたが、「照明を抑えた印象的な空間をつくりたい」という強い希望をお持ちでした。
設計当初から、店内の照明は青系LEDと間接照明を組み合わせた演出重視の構成で、全体としてかなり暗い雰囲気に仕上げる予定でした。構造はカウンター席に加え、ソファタイプのボックス席も設けることで、落ち着いてお酒を楽しめる空間を実現するという設計でした。
ご本人としては、ダンスやカラオケ、接待といった行為は一切行わない方針であり、「通常の飲食店営業許可で十分」とお考えでしたが、内装業者の紹介で当事務所に相談された際、照明の照度によっては風営法の規制対象になる可能性があることを初めて認識されました。
照明計画を確認し、店内全体の平均照度が約7.2ルクスである見込みであることが設計段階で明らかになり、実際の測定でも営業時間中の想定照度が基準の10ルクスを下回ることが確定。これにより、風俗営業2号許可の申請が必要な営業形態に該当するという判断に至りました。
行政書士のポイント解説
風俗営業2号許可は、営業内容がきわめてシンプルであっても、「照度10ルクス以下」という明確な数値条件を満たしてしまうことで、制度の対象になるという特徴があります。今回のように、店舗の雰囲気づくりを重視する中で、無意識のうちに規制の枠に入ってしまうケースは少なくありません。
申請にあたって、まず必要だったのは立地の調査です。浪速区の繁華街に位置していたことから、商業地域であるかどうか、また半径100メートル以内に保全対象施設(学校・病院・図書館等)が存在しないかどうかを徹底的に確認しました。現地調査の結果、いずれも要件をクリアしており、申請可能な物件であることが確認できました。
続いて、営業所の構造を示す平面図、照度分布図、音響設備図などの図面一式を作成しました。これらはすべて警察署が求めるフォーマットに準拠したものであり、クライアントからヒアリングした情報をもとに、営業実態に即した設計で資料を整えました。
警察署への事前相談には行政書士が同席し、店舗の照度が確かに10ルクスを下回ること、しかしながら演出目的であり、調光設備によって可変照度が可能なことなどを丁寧に説明しました。警察側からは「実際の営業時の照度」が判断基準であることが改めて確認され、やはり風俗営業2号の対象となるとの見解が示されました。
また、照度以外にも、換気設備や避難経路、出入口の配置に関して数点の指摘がありましたが、施工業者と連携して速やかに図面と現場に修正を加え、申請受理にこぎつけることができました。
その後の審査も滞りなく進み、申請から約30日で風俗営業2号許可が交付されました。開業予定日が近づいていたため、早期対応によるスピード感が鍵となりましたが、関係者全員が連携して取り組んだことで、無事オープン当日に間に合わせることができました。
解決イメージ
このモデルケースは、店舗運営そのものには問題がないにもかかわらず、「照度の数値」だけで風俗営業に該当してしまうという、制度と現場のギャップを象徴するような事例です。とくに副業としての出店や、知人との共同プロジェクトでの開業では、制度への認識が浅いまま内装工事が進んでしまうリスクが高くなります。
また、繁華街に位置する物件では、警察署による立入確認が比較的頻繁に行われることが多く、「知らなかった」「説明された覚えはない」といった言い訳が通用しない場面もあります。照度の測定は、開業前に必ず実施すべき初期確認事項の一つです。
今回のように、設計段階で専門家が関与し、照度の確認と申請手続きまで一貫して対応することで、開業スケジュールを守りつつ、安心して営業を開始できる環境が整います。仮に申請を怠っていた場合、営業停止命令や行政処分といったリスクを背負うことにもなりかねません。
風俗営業2号許可が必要になるかどうかは、接待の有無や業種名とは関係なく、照度と営業実態によって判断されます。だからこそ、制度を正しく理解し、必要な手続きを怠らずに進めることが、スムーズな店舗運営につながります。
照明や空間演出にこだわりを持つ事業者ほど、風営法の照度規制に触れる可能性があります。店舗の魅力を最大限に活かしつつ、合法的な営業を実現するには、制度面の準備が不可欠です。計画段階でのご相談をお勧めします。