※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
今回のご依頼者様は、大阪市内で長年にわたり建設関連の業を営んでこられた50代男性でした。これまでの事業経験を活かしつつ、新たな収益柱としてナイト業態への進出を考えておられ、知人から紹介を受けたスナック店舗をそのまま居抜きで引き継ぐかたちで開業を計画されていました。
前オーナーは高齢で引退を決意されていたものの、店舗には根強い常連客が付いており、そのコミュニティを引き継ぐ形で事業を開始したいという意向がありました。時間的猶予が限られており、できるだけ早く風俗営業1号許可を取得して開業にこぎつけたいという強いご要望があったため、当事務所へお問い合わせいただいた段階から迅速に対応を開始しました。
物件の賃貸借契約は未締結の状態でしたが、まずは開業の前提条件となる立地要件の確認を実施しました。現地調査の結果、物件は商業地域に位置し、近隣に学校・保育園・図書館・病院などの保全対象施設も確認されなかったため、風俗営業許可取得における立地面のクリアは可能であると判断しました。
続いて店舗内の構造確認を行ったところ、前オーナーによるスナック営業時代の内装がほぼそのまま残っていたものの、照明設備については基準を満たしていない箇所が散見されました。照度計による計測では、一部の席で風営法が求める20ルクスに届いておらず、照明器具の交換および追加が必要な状況でした。また、カウンター背面にある棚が視認性を遮っているため、一部を撤去して店内の見通しを確保する提案も行いました。
さらに、音響設備においてはスピーカーの配置が不均等で、音の偏りが生じていることが確認されました。こちらについては、設置位置の調整とスピーカーの追加設置によって、全席に均等な音量が届くように整備する必要がありました。これらの点について、建設業出身のご依頼者様と綿密に相談しながら、施工業者と連携を取りつつ早急に改善を進めていきました。
店舗構造の調整と並行して、営業所平面図、求積図、音響設備図、照度分布図といった必要図面の作成をすべてCADにて行い、現地の正確な寸法・設備・照度情報を反映しました。その他にも、営業概要書、用途地域証明書、住民票、身分証明書、誓約書、登記されていないことの証明書、賃貸借契約書、管理者選任届出書といった添付書類一式を収集し、書類整備を終えたのち、所轄の警察署へ申請書を提出しました。
提出から約35日後には立入検査の通知があり、当日は行政書士が現地に立会い、警察官との同行によって照度の再計測、視認性の確認、図面と実際の構造の照合、音響設備の作動確認などを丁寧に実施しました。事前準備が徹底されていたこともあり、特に指摘事項なく検査は終了し、約10日後には風俗営業1号許可証が正式に交付されました。
許可取得後は、消防署への使用開始届、保健所での飲食店営業許可の名義変更手続き、税務署への開業届提出、社会保険や労働保険の整備といった開業に必要な各種準備を一括して支援しました。結果として予定通りのスケジュールで開業を迎えることができ、オープンから1か月が経過した現在では、既存の常連客に加えて口コミで新たな来客も増えており、堅調な営業を続けておられます。
行政書士のポイント解説
今回の申請における最大のポイントは、居抜き物件の構造がそのまま使用できるかどうかを、風営法の観点から厳密に精査するというプロセスにありました。過去に営業実績のあるスナック店舗であっても、照度や視認性、音響設備といった構造基準は改正により細分化されてきており、現行基準に適合しているとは限りません。むしろ、以前は問題とされなかった箇所が、新しい検査基準では不適合と判断されることは少なくありません。
そのため、申請に先立ち、専門家による現地調査と照度・音響の実地計測を行うことが非常に重要です。今回のケースでは、ご相談時点から現地確認を早期に行うことができたため、物件契約前に「この場所で開業が可能かどうか」を明確に判断することができました。これは時間やコストのロスを防ぐうえで極めて有効であり、特に風俗営業のような要許可業態においては必須の対応といえます。
また、店舗の構造調整についても、過剰な改装費用をかけるのではなく、必要最小限の設備調整に留めることでコストバランスを意識した対応ができました。ご依頼者様が建設業に精通していたこともあり、現場との意思疎通が非常にスムーズであった点も、許可取得までのスピード感につながったといえます。
書類整備の面では、法人名義ではない個人名義での申請となったため、必要となる書類の種類も明確で、作成において特段の難易度はありませんでしたが、提出警察署の運用ルールに合わせて文言や図面の記載形式を細かく調整するなど、実務的なノウハウが多く活きる局面でもありました。
開業に向けたサポートについても、許可証の交付後すぐに消防署・保健所・税務署との各種手続きへと移行できるよう、事前に段取りを整えておくことで、全体のスケジュールを滞りなく進めることができました。これにより、ご依頼者様の希望通り、短期間でのスナック開業が実現しました。
解決イメージ
本件は、飲食店営業経験のない事業者が、居抜き店舗を活用して初めて風俗営業1号許可を取得し、スムーズに開業まで到達した成功事例として位置づけられます。とりわけ、前オーナーから店舗を受け継いだにもかかわらず、そのまま使用することができない設備面の課題を的確に抽出し、必要最小限の改修で法令基準を満たしたことが、プロジェクトの成否を分ける重要なポイントでした。
また、店舗の引継ぎから開業までのタイトなスケジュールのなかで、事前調査・構造整備・図面作成・書類準備・警察対応・行政手続といった一連のプロセスを一括して管理し、クライアントの業務負担を最小限に抑えた支援ができた点は、当事務所の強みを活かした象徴的な事例でもあります。
結果として、常連客の多い店舗をそのまま引き継ぎつつ、新たな経営者としてスムーズに地域に溶け込むことができ、開業当初から売上も安定しています。今後は2店舗目の出店も視野に入れておられるとのことで、継続的な支援を通じて、より多角的なナイトビジネス展開へとつなげていかれる予定です。