※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
今回のご相談者様は、長年地域に根ざして営業されている家族経営の寿司店の店主ご夫婦でした。店舗は住宅街に位置しており、地元住民に愛され続けて30年以上営業を継続してきたものの、近年は後継者不足や人手の確保が困難となり、営業形態の見直しを余儀なくされていました。特に、夜間や週末の営業は慢性的な人手不足の影響を受け、営業の継続に支障が出始めていたのです。
そんな折、かつて技能実習生として勤務していたベトナム人女性から連絡が入りました。日本での経験が良い思い出として残っており、再びあの寿司店で働きたいという希望を伝えてきたとのことでした。ご夫婦にとっては、仕事の丁寧さや真面目な勤務態度、信頼感などをよく知る人材であり、即戦力としての再雇用を前向きに検討されました。
しかし、元技能実習生が再来日するための在留資格として、留学や特定活動などの制度では就労時間が制限され、フルタイム勤務には不向きであるという懸念がありました。そこで、雇用先からは「特定技能ビザ(外食業)」の活用が可能かどうか、また申請に際して必要となる条件や書類、制度上の注意点などについて詳細な説明を求められました。お話を伺った段階で、制度の方向性が適切であると判断し、正式に申請業務をご依頼いただくこととなりました。
ご夫婦としても制度の仕組みを理解するのは初めてで、雇用契約や支援体制の整備、審査に耐えうる体制づくりについて不安が大きかったため、弊所で一貫してサポートする体制を整えることになりました。
行政書士のポイント解説
まず、外国人女性が制度要件を満たしているかどうかを確認する必要がありました。技能実習を修了していることは制度上の前提として重要なポイントです。そのうえで、特定技能(外食業)での在留資格を取得するためには、外食業の特定技能評価試験に合格していることが求められます。今回の候補者は、すでに評価試験に合格しており、さらに日本語基礎テスト(A2レベル)もクリアしていました。これにより、制度要件においては「知識・技能」と「日本語能力」の両方を満たしていることを証明することができました。
次に重要になるのが、雇用主側の体制整備です。制度上、外国人労働者が安心して就労できるよう、雇用条件や勤務内容が適切であること、さらには日本人と同等の待遇であることが厳しく審査されます。本件では、賃金水準・勤務時間・休暇・福利厚生などを明記した雇用契約書を準備し、賃金台帳、勤怠記録、社会保険・労災保険の加入記録などの資料を整備しました。特に夜間勤務や週末営業が含まれるため、時間外労働や深夜手当の具体的な支払い方法も記載し、労基法上の整合性を確保しました。
制度上義務となる支援計画については、登録支援機関と連携して作成を進めました。支援内容は、住居手配、行政手続きへの同行、生活オリエンテーション、日本語学習支援、定期的な面談と相談対応など、幅広く定められており、その一つひとつを具体化して文書にまとめました。申請時には、支援計画の実行担当者や、連携機関との業務分担についても明確化して提出しています。
また、入管審査においては雇用主である寿司店の経営安定性も重要視されます。そのため、直近3期分の確定申告書、売上実績、今後の事業計画、店舗の客数推移などを補足説明資料として準備しました。特に近年の経営状況や営業日数の変化、常連客数の動向などをグラフや表で表現し、経営継続性と安定的な雇用が可能であることを論理的に説明しました。
これら一連の書類を整理し、ミスや記載漏れがないよう複数回にわたってチェックを重ね、提出書類一式を整えました。その結果、申請から6週間程度で追加資料の求めもなく、無事に許可を取得することができました。女性スタッフは正式に「特定技能(外食業)」として勤務を開始し、営業再構築に大きく貢献しています。
解決イメージ
外国人スタッフの再雇用によって、長年悩みの種であった人手不足の課題が解消され、特に夜間営業の継続が可能となりました。店舗としては、常連客への安定的なサービス提供を継続できるようになり、顧客満足度の向上にもつながっています。料理の仕込みや接客、片付けなど幅広い業務をスムーズにこなす彼女の存在は、単なる人手補充にとどまらず、店の雰囲気やオペレーションの安定にも寄与しています。
また、外国人採用という初の試みに対し、制度理解と体制整備を一から進めたことで、今後の人材確保の選択肢が広がったという副次的な効果も生まれました。支援計画の実行を通じて、外国人労働者の就労環境に対する理解も深まり、地域の多様性や国際性を受け入れる意識が高まるきっかけとなりました。
今回のケースは、地方の小規模飲食店であっても、制度要件をしっかりと理解し、専門家のサポートを受けることで、制度を最大限活用できることを示す好事例といえます。人手不足に悩む多くの中小事業者にとって、今後の採用戦略を見直す契機にもなる実践的なモデルケースとして位置づけられるでしょう。