※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
ご依頼企業は、地方の住宅地近くに工場を構える中小の製造業者であり、主に金属部品や産業用機械のパーツ製造を行っておられます。従業員数は15名程度で、長年地域に根差した経営を続けておられますが、近年では高度な設計ニーズや短納期化の影響を受け、業務内容も多様化・複雑化が進んでいました。特に取引先からの設計変更や試作品対応といった業務が増加し、社内においてCADを扱える設計技術者の人材不足が深刻化しておりました。
そうした中で、ミャンマー出身のある若手技術者が採用候補として浮上しました。候補者は母国の大学で機械工学を学んだ後、日本へ留学して日本語学校と専門学校で学び、卒業後は日本国内の企業で設計補助や技術書作成などに従事してきた経験を持っていました。特にCADを使った業務の経験が豊富で、日本語能力も高く、工場見学の際の対応も誠実で明るく、現場スタッフとの相性も良好でした。
このような経緯から、企業としては正式採用に向けた手続きを進めることになりましたが、これまで外国人材の雇用経験が一切なかったため、在留資格制度そのものへの理解が不十分であること、制度に基づく要件整理や申請書類の整備などに不安を感じ、専門家のサポートを必要とされました。特に、技術・人文知識・国際業務ビザの要件にある「学歴と職務の関連性」や、「日本人と同等以上の待遇の証明」「企業の安定性」など、具体的にどう整理すればよいのか明確でなかったため、制度実務に通じた行政書士による支援を求めてご依頼をいただいたという流れになります。
行政書士のポイント解説
今回のケースでは、まず候補者本人の専攻分野と企業で従事する業務内容との整合性を明確にすることが最重要のポイントでした。在留資格「技術・人文知識・国際業務」は、単に技能や知識を持っているだけでは認められず、大学等で修得した内容と職務内容が「直接関連している」と評価されることが求められます。候補者は機械設計を専攻しており、企業側が予定しているCADを用いた設計業務、設計書や仕様書の作成、取引先との技術的やりとりといった業務との関連性は非常に高いものでした。
そこで、大学の学位証明書や成績証明書、在籍していた専門学校の修了証、日本語能力試験N2の合格証明書などを提出資料として整え、履歴書と職務経歴書を通じて「過去にどういった業務に従事していたか」を詳細に示しました。とくにCADを用いた設計補助の実務経験や、顧客からのフィードバックに基づく仕様変更への対応経験が、今回の職務内容と合致していることを、補足説明資料を加えて文書化しました。
一方、受入れ企業側については、日本人従業員との待遇差がないことを証明するため、雇用契約書の詳細を精査し、就業規則や給与規定とともに賃金台帳、源泉徴収票、労働条件通知書をそろえました。社会保険・労働保険の加入状況も確認し、所轄の年金事務所・労働基準監督署での届け出状況を証明する資料も提出書類に加えました。月給は25万円以上を提示し、勤務時間や休日、残業代の取り扱い、福利厚生に至るまでの労働条件を明記することで、入管審査官が確認する待遇水準の透明性を高めました。
さらに、新入社員としての受け入れ体制に関しても、業務指導体制・OJTスケジュールを事前に策定し、教育担当者を明確にした資料を準備しました。地方企業である点から、外国人材の定着支援にも力を入れていることを示すため、社内での支援体制や地域住民とのコミュニケーション支援なども紹介し、単なる雇用契約以上の安心材料となる内容を盛り込みました。
申請に際しては、「在留資格認定証明書交付申請」として書類一式を提出しました。書類には経営実態を示す確定申告書3期分、最新の決算書、設備一覧、工場レイアウト図、工場外観と生産ラインの写真などを含め、企業の信頼性や事業継続性を丁寧に説明する構成としました。こうした地道な準備の結果、申請から約6週間後、追加資料の求めもなく無事にビザが許可されました。
解決イメージ
ビザ許可後、候補者は正式に就業を開始し、現場の設計補助を中心に業務を担当しています。導入研修を終えた後は、自ら進んで改善案を出すなど積極的な姿勢を見せ、社内の既存スタッフとの協働もスムーズに進んでいます。CADソフトの操作スピードや精度は高く、従来なら社長自らが対応していた作業の一部を安心して任せられるようになったという声も寄せられました。
また、社内で初めての外国人採用ということもあり、周囲の不安も当初は少なからずあったものの、候補者の人柄や仕事に対する真摯な態度により、現在では社内全体に良い影響を与える存在として受け入れられています。新人教育にも一部携わるようになり、企業としても長期的な戦力として定着を期待できる体制となりました。
このように、地方の中小企業であっても、制度の正しい理解と体制整備がなされていれば、技術・人文知識・国際業務ビザによる外国人技術者の雇用は十分に実現可能です。今回のケースはその一例であり、専門知識を持った外国人材の活用が、現場の業務効率化や技術力向上に寄与するだけでなく、社内の雰囲気や人材育成の側面にも好影響を及ぼすことを実感させるものとなりました。