※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
今回のクライアント様は、約15年前に留学生として来日され、日本語学校や専門学校を修了した後、飲食業や販売職など複数の職場を経験してこられた方です。長年の日本での生活を通じて、消費者の健康志向やエコロジーへの関心の高まりを感じ、ご自身のルーツであるネパールから自然由来の商品を輸入し、日本で販売するという構想を抱かれるようになりました。具体的には、ネパール産のオーガニック雑貨や自然食品を中心に取り扱い、これらを販売しつつ、簡易なカフェ営業を併設するという業態での独立開業を目指されていました。
都市部での出店も検討されたそうですが、賃料の高さや競合の多さなどの課題から断念し、落ち着いた環境で暮らしやすい地方エリアに注目されるようになりました。そして、閑静な住宅街にある空きテナントと出会い、「ここでなら、雑貨の魅力もゆっくり伝えられるし、地域の方と温かいつながりが持てそうだ」と感じ、出店を本格的に検討されるようになりました。
しかし、ビザ取得に必要な経営管理の制度や法人設立の手続き、資金面の証明、事業計画の策定などはすべて初めての経験であり、どこから手を付けてよいかわからないという不安があったとのことです。また、雑貨とカフェという複合的な業態が制度要件に合致するのかどうかも判断できず、初回相談の段階では開業そのものが実現可能なのか確信が持てない様子でした。
当事務所では、初回のヒアリングから丁寧に背景を伺い、実現したい事業の趣旨や店舗候補地の環境なども確認しながら、具体的な手続きの流れや、どのような資料が必要となるかを順を追って説明しました。その結果、制度に対する理解が深まり、クライアント様ご自身の中でも「これは実現可能だ」という手ごたえが芽生えたことで、法人設立からビザ申請に至るまでの包括的支援をご依頼いただくことになりました。
行政書士のポイント解説
経営管理ビザの取得には、制度上四つの柱が求められます。それは事業の実在性、事業所の確保、資本金の払込みと資金の出所証明、そして継続性を担保するための事業計画と経営適性の証明です。今回のケースでは、まず事業所の実在性を確保するため、候補テナントの賃貸借契約を締結し、物件の現地写真、店舗内の図面、周辺環境の状況を示す資料などを整理しました。これにより、店舗が実際に確保されており、営業可能な状態にあることを示しました。
法人については株式会社形態を選択し、出資金500万円を自己名義の銀行口座に振り込み、通帳コピーや過去の蓄財記録、贈与契約書なども添付することで、資金が借入等でないことを証明しました。定款には「オーガニック雑貨等の小売業」および「自然由来食品の製造・提供業」を明記し、法務局からの登記簿謄本を取得することで法人格の実体を明確化しました。
事業計画については、30ページを超えるボリュームで作成を行いました。具体的には、ネパールの現地サプライヤーとのメール交渉履歴、取引予定商品の画像、サンプル送付履歴、契約書案を用意し、輸入経路の具体性を示しました。販売する商品としては、オーガニック石鹸や手織り布製品などの雑貨と、スムージーや無添加の軽食類などの自然食品を組み合わせた複合業態としました。収益構造の中では、雑貨と飲食それぞれの月間販売予測、原価率、販売価格、必要経費を算出し、事業開始初年度からの黒字化が可能であることを客観的に説明しました。
集客施策としては、SNSを活用した店舗紹介やオンライン販売連携、地域イベントへの出店、周辺住民とのつながりを意識したチラシ配布や口コミ促進策なども計画に組み込み、地域密着型店舗としての広がりを描きました。将来的には売上拡大に伴い、アルバイト1〜2名の雇用も予定している旨を記載し、雇用創出の意欲と計画性もアピールしました。
クライアント様の経歴についても、ネパールの大学で国際ビジネスを専攻し、卒業後はネパール国内の輸出業者で営業管理職を務めていた経歴を職務経歴書にまとめました。また、日本国内でも販売業務や飲食業務の経験が豊富であることから、実務経験と日本での生活基盤が十分であることも併せて記載し、日本語能力試験N2の合格証も添付しました。これにより、日本語での接客や仕入・販売対応にも問題がないこと、さらに経営者としての素養も備えていることを証明しました。
こうした各種資料を一式そろえ、補足説明書や事業スキーム図、事業開始後の資金繰り表、設備配置図なども添付したうえで、大阪出入国在留管理局へ在留資格認定証明書交付申請を行いました。その結果、提出から約2か月で許可が下り、追加資料の請求も最小限にとどまるスムーズな結果となりました。
解決イメージ
在留資格が許可された後、クライアント様は予定通り店舗の内装改装に着手され、ネパールからの商品輸入や什器・備品の購入、調理器具や冷蔵設備の設置などを順調に進められました。開業当初から、地域住民の方が足を運んでくださり、雑貨と軽食の両方を楽しめる空間が好評を博しています。特に健康志向の高い若い女性層や、子育て世代の母親、自然食品に関心のある高齢者など、幅広い層のリピーターが増えており、日々の売上も安定してきているとのことです。
さらに、店舗での営業だけでなく、地域イベントでの出店依頼や、ネパール料理教室の開催、店舗内での少人数向けワークショップの開催など、新たな展開も積極的に取り入れておられます。経営管理ビザの制度を活用した外国人による起業という点では、地方ではまだ事例が少ない分、地域行政や商工会議所からも注目を集めており、今後の成長が大いに期待されています。
この事例は、地方に居住する外国人の方であっても、明確なビジネス構想と誠実な準備、そして専門家の支援があれば、経営管理ビザを取得して独立開業することが十分可能であることを示しています。制度への理解と正確な書類作成、地域特性に合った事業設計が伴えば、都市部に限らず地方でも着実に事業を軌道に乗せることができるという希望のモデルケースとなりました。