※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
ご依頼者様は、来日後に日本語学校で基礎的な言語能力を身につけたうえで、調理師専門学校へと進学し、2年間でパン製造と軽食調理に関する専門技術を修得されました。卒業後はベトナム料理店での長期アルバイトを通じて、日本の飲食業界での実務経験を積み上げ、いつか自分の店を日本で開業したいという強い目標を持ち続けてこられた方です。
そんな折、駅から徒歩圏内の小さな空き店舗と偶然出会い、「この立地と規模であれば、地域密着型のベーカリーカフェとして自分の夢を実現できるかもしれない」と考えるようになりました。物件の仮押さえを済ませた段階で、経営管理ビザを取得しての独立開業に向けた準備を本格的に始められましたが、法人の設立経験がなく、日本国内での行政手続きにもまったく不慣れであったため、当事務所へ一から支援をお願いしたいとのご相談をいただきました。
当初は、「ベーカリーカフェのような小規模業態で、外国人が単独で経営管理ビザを取得できるのだろうか」という強い不安を抱かれていました。しかし、私たちの方で制度の概要や過去事例を丁寧にご説明し、必要となる各種準備項目や書類のリストを提示しながら、事業の現実性と継続性を重視した構成で進めれば十分に可能性があるとお伝えし、正式にご依頼をいただく流れとなりました。
行政書士のポイント解説
経営管理ビザを取得するうえで特に重要なのは、実現可能性の高い事業計画と、開業後の継続的運営を見据えた体制の構築です。今回は個人による小規模な飲食店舗開業ということで、申請に際しては申請書類の信頼性と整合性が特に重視されると判断し、慎重な書類作成とスケジュール管理を徹底しました。
まずは法人の設立支援から着手しました。ご本人の希望により、株式会社形態での登記を行うこととし、定款の作成・認証、法人登記申請までを当方で一貫してサポートしました。資本金は自己資金からの出資であり、約500万円を用意されていたため、送金履歴の証明や通帳の写し、資金原資の一部として親族からの贈与があったことを示す贈与契約書、送金記録なども併せて準備しました。
物件については、すでに飲食業の使用履歴があるテナントであったため、大規模な用途変更手続きなどは不要でしたが、建物の平面図・契約書写し・店舗写真などを整え、設備面と営業条件の妥当性を証明しました。併せて、食品衛生責任者資格の取得状況や、厨房機器の整備予定、営業許可取得見込みなども書面で明示し、開業準備が確実に進んでいることを強調しました。
もっとも力を注いだのは、事業計画書の作成です。最終的には20ページ以上の構成となり、店舗コンセプト、提供メニュー、調理方法、仕入れルート、競合分析、ターゲット層、売上計画、原価率、SNSを活用した集客方法、開店後のイベント戦略など、細部まで綿密に記載しました。特に、ベトナム風の惣菜パンやフォーと組み合わせたセット販売など、他店との差別化要素を盛り込むことで、「この店舗ならではの強み」を審査官に理解してもらえるよう工夫しました。
本人の経歴についても、専門学校での修了内容と実技レベル、さらにアルバイト先での業務内容や顧客対応経験などを、職務経歴書や補足説明書として提出しました。また、経営と製造を一人で担うことの負担軽減と事業継続性を示すため、開業直後からアルバイト1名を雇用する計画を加え、人員体制面の現実性も訴求しました。
資金繰り表では、初期投資・運転資金の見通し、固定費と変動費の内訳、月別の収支シミュレーションなどを盛り込み、資金管理面の計画性を可視化しました。このような書類をすべてそろえたうえで、大阪出入国在留管理局にて「在留資格変更許可申請」を提出しました。
申請後には一度だけ追加資料の提出要請がありましたが、準備済みの補足書類で速やかに対応し、結果として申請から約7週間後、正式に経営管理ビザの許可が下りました。
解決イメージ
現在は、駅前にあるテナントで早朝7時から営業を開始し、地域の通勤客や高齢者を中心にリピーターを増やしつつあります。惣菜パンを中心とした朝食メニューの提供は近隣でも珍しく、SNSでも徐々に話題となっており、開業から間もない段階でありながら好調なスタートを切ることができています。
店舗内には手作り感のあるベトナム風インテリアを取り入れており、アジアンテイストと和の融合をコンセプトとした空間が来店者の心をつかんでいます。店主であるご本人は、「毎朝店を開けてパンの焼ける香りが広がる瞬間がとても幸せ」と語っておられ、日本で経営者としての新しい生活を心から楽しんでおられます。
今後は、仕込み作業の一部自動化や、新しい焼成機器の導入を検討しており、売上の安定化と作業効率の向上を両立する体制づくりにも着手されています。また、地元のイベントやマルシェへの出店も視野に入れており、地域とのつながりをさらに深めていく計画も始動しています。
このように、本件は小規模業態であっても、明確な計画と丁寧な準備があれば、外国人であっても経営管理ビザの取得が十分に可能であることを示す好例となりました。将来的に外国人の開業支援をご検討されている方にとっても、大きな参考となるモデルケースといえます。