※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
大阪府内の中小企業で、クラウド型Webサービスやデザイン業務を手掛ける企業様からのご相談でした。企業様は社員数十名の体制で、業務は労働集約的な特性を持っており、案件ごとに複数の工程を社内で内製化して対応しておられます。近年、クライアントの要求水準が年々上がる中で、UI/UXデザインの質が成約率に直結するケースも多く、社内で専門スキルを持った人材の必要性が高まっていました。
そうした背景の中、ベトナムに居住しているある候補者の採用を検討することとなりました。候補者は日本の大学でメディアデザインを学び、卒業後には日本語能力試験N2を取得、さらにはデザイン事務所でのインターン経験も積んでおり、即戦力としての期待が高まっていました。特にWeb制作やアプリケーションの画面設計など、実務に直結する経験を持っていたため、企業様としてもぜひ採用したいという意向をお持ちでした。
一方で、企業様自身は外国人材の採用が初めてであり、特に地方圏においては技術・人文知識・国際業務ビザの取得要件や申請実務に関する情報が少ないことに悩まれていました。制度の仕組みや必要な書類、雇用契約書の作成方法、企業体制の整備などについて、どこまで準備すればよいのかが分からず、正式に当事務所へご相談をいただくこととなりました。
初回の面談では、まずビザ制度の全体像をご説明し、候補者本人の学歴・職歴と予定業務の整合性が申請上の最重要ポイントであることをお伝えしました。その上で、企業として整備すべき法定書類や労働条件の水準、外国人採用に必要な支援体制などを一つずつご案内し、申請手続きの一切をサポートさせていただく運びとなりました。
行政書士のポイント解説
技術・人文知識・国際業務ビザの申請では、まず本人の学歴や職務経験と、採用後に従事する業務内容との間に「高度な専門性の連続性」が必要とされます。今回の候補者は大学でメディアデザインを専攻しており、グラフィックデザインやユーザーインターフェース理論、色彩設計などの知識を習得していました。一方、企業側の予定業務は、WebサイトやアプリケーションのUI設計、情報設計、構造設計、クライアントとの折衝・要件整理などを含んでおり、学んだ内容との整合性が非常に高い状態でした。
そこで、本人の履歴書や職務経歴書をベースに、インターンシップ経験や卒業制作の内容を加えた業務記述書を新たに作成し、「大学で学んだ専門性が実務にどのように活かされるのか」を具体的に記載しました。特に、企業が担当する実際のプロジェクトにおいて、どのような形で彼女が関与し、デザイン設計や改善提案を行うのかを明確に記述することで、審査官が実務と学歴の関連性を納得できる資料構成としました。
次に企業側の整備です。まずは雇用契約書を作成し、給与額が地方の新卒日本人社員と同等以上であること、勤務時間・休日・残業条件が適法であることを明記しました。また、源泉徴収簿、賃金台帳、勤怠記録、社会保険・労働保険の加入状況を示す証憑書類も整備し、法令に則った労働環境であることを客観的に証明しました。
さらに、業務上の教育・支援体制を裏付ける資料も提出しました。社内の先輩社員によるOJT計画、業務引き継ぎスケジュール、使用ツールのマニュアル、日本語対応サポート体制などを記載した資料を添付しました。ビザ審査では、外国人が定着できる職場環境であることも重要視されるため、新人研修資料や福利厚生の紹介資料、有給取得率なども申請書類の一部としてまとめました。
また、企業の事業内容や経営安定性を示すため、会社概要資料、主要業務内容の説明書、過去の納品実績、顧客一覧なども添付しました。クラウドサービスやデザイン支援という抽象的な業務内容に対し、実例や成果物の提示により具体性を高め、地方の中小企業であっても高い専門性を有していることを丁寧に証明しました。
これらの資料一式を添えて、在留資格認定証明書交付申請を出入国在留管理局へ提出した結果、追加資料の照会は一切なく、申請から約6週間後に無事認定されました。本人はその後来日し、正式に業務を開始。現在では社内のデザイン担当者としてクライアントとの折衝にも参加するなど、中心的な業務を担う存在として活躍されています。
解決イメージ
今回の申請を通して、企業様・候補者双方の不安が解消され、実際の雇用・業務遂行へとつながりました。候補者ご本人は「念願の日本での専門職就労が実現できたことが何より嬉しい」と語られ、最初は不安だった制度面も、逐一説明を受ける中で安心して準備を進められたとのことです。
企業様にとっても、初めての外国人専門職採用という大きな挑戦でしたが、申請過程を通じて雇用契約書の整備や教育体制の見直しが進み、結果として社内体制の強化にもつながったと評価していただきました。特に、地方企業での外国人雇用は都市部と比べて事例が少ないため、手探りで始められた部分もありましたが、制度に則った準備を一つずつ積み上げることで、確実に許可を得ることができました。
現在、彼女はWebデザインに加え、UI/UX改善、構成案作成、ヒアリング支援など、社内で重要な役割を果たしています。デザイン業務の品質が向上したことで、クライアントからの満足度も高まり、企業の評価・受注率の向上にも寄与しています。今回の取り組みは、単なる一人の採用にとどまらず、企業の成長基盤を強化する一歩となりました。
この事例は、外国人材のビザ取得が都市部に限られたものではなく、地方企業においても制度と実務をきちんと理解し準備すれば、十分に成功できるという好例です。これから地方でも優秀な外国人人材を活用したいと考える企業様にとって、極めて実践的な参考となる成功事例と言えるでしょう。