※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
ご相談者様は、地方都市の住宅街で祖父母の代から三代にわたり和食店を営んでおられる方でした。店は地域の高齢者や近隣住民に愛されるアットホームな店舗であり、日常の食事処として根付いていました。しかし時代の変化とともに、若手の人材が定着しづらくなり、夜間や週末営業の人手が不足する状況が続いていました。加えて、店主自身の高齢化や体力的な負担も無視できなくなり、経営継続に強い不安を抱かれていました。
そんな中、過去に技能実習生として店舗で働いていたネパール人の男性から「もう一度日本で働きたい」と連絡があったことが、今回の相談の発端となりました。この男性は実習生として勤務していた当時から誠実で仕事熱心な人物であり、店主様としても「また彼と一緒に働きたい」と強く願うようになりました。
しかし、外国人を正社員として再び雇用するには、在留資格の選定や要件確認、申請書類の整備など、個人で対応するには難易度の高い課題がいくつもあることが分かってきました。特に留学生ビザや技能実習ビザは就労時間に制限があるため、フルタイムの戦力として雇うには不向きです。そこで検討に上がったのが「特定技能(外食業)」という在留資格でした。
この制度であれば、正社員として雇用し、長期にわたって戦力として働いてもらうことが可能になります。ただし、小規模店舗でも制度要件を満たすことができるのか不安があったため、制度に詳しい行政書士に相談し、申請手続き全般のサポートを希望されることとなりました。
行政書士のポイント解説
まず、在留資格「特定技能(外食業)」を取得するためには、本人側と雇用主側の両方に厳密な要件が課されます。本人側については、技能実習を修了していること、または特定技能評価試験に合格していることが求められます。今回のケースでは、対象者がすでに日本で技能実習を3年間行い、帰国後にネパールで外食業の特定技能評価試験に合格していたため、資格要件はクリアしていました。
本人の適格性を証明するため、技能実習終了証明書、評価試験の合格証明書、過去の勤務記録や職務内容を記載した推薦状などを準備しました。これにより、単なる希望者ではなく「即戦力として適切な人物である」ことを裏付ける書類が整いました。
一方、雇用主側としての要件も非常に多岐にわたります。まず雇用契約書においては、給与・労働時間・休日・残業手当・退職手当など、日本人と同等以上の待遇であることを明記する必要があります。さらに、過去の賃金台帳や労働条件通知書、出勤簿などを整備し、労働環境が適切に管理されていることを示しました。
また、特定技能制度では、外国人労働者が就業後に日本社会に円滑に適応できるよう「支援計画」の作成と実施が義務付けられています。この計画では、空港までの送迎、住居探しの補助、住民票の手続き、日本語講習の受講支援、定期面談の実施、日本文化や慣習の説明などを具体的に記載する必要があります。本件では登録支援機関との契約を締結し、制度上必要な支援体制を整えました。
加えて、審査の対象には雇用主の事業継続性や経営の安定性も含まれます。そのため、過去数年分の売上台帳・確定申告書・仕入台帳・収支計画書を整理し、小規模ながらも地域密着型で安定した経営が続いていることを証明しました。特に、近年の売上回復や地域からの支持状況を文章とデータで示すことで、入管に対する説得力を高めました。
提出書類は全体で100ページを超えるボリュームになりましたが、要点を押さえた構成としたことで、入管からの追加資料請求もなく、申請から6週間程度で無事に在留資格変更が認められました。これにより、当初の目的であった正社員雇用が実現し、店舗の人的体制が安定しました。
解決イメージ
今回のケースでは、制度に対する深い理解と、書類整備・支援体制構築を一つずつ丁寧に実行していったことが、最終的な許可取得に直結しました。特定技能制度は、外国人を戦力として本格的に迎え入れたい小規模事業者にとって非常に有用な手段である反面、手続きの煩雑さや書類の膨大さから敬遠されがちです。しかし、制度を正しく理解し、適切な支援者とともに準備すれば、小規模店舗であっても十分に活用可能です。
実際、今回採用された外国人スタッフは、過去に一度働いた経験があることから、店舗の雰囲気や業務内容にもすぐに適応し、現在では厨房補助、接客、在庫管理、簡易調理と多岐にわたって活躍されています。店主の負担も軽減され、営業の安定化に寄与しています。常連客からも「またあの人が戻ってきてくれた」と歓迎の声があり、店舗全体の空気が良い方向に変化したとのことです。
今後は、特定技能制度を活用してさらに多様な人材を雇用し、業務の幅を広げたいとの希望も語られています。特定技能制度を適切に運用すれば、人手不足に悩む多くの中小飲食店にとって、持続可能な雇用の選択肢となり得ることを改めて実感できた案件となりました。