※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
ご相談をいただいたのは、駅前で10年以上にわたりラーメン店を営んでいる店主様でした。地域に根付いたその店舗は、長年にわたり地元のお客様に親しまれており、店主様は常にスタッフの教育や接客の質に力を注いできました。中でも、ある外国人留学生のアルバイトスタッフに対しては、特別な信頼を寄せておられました。
そのスタッフは、数年前に日本語学校に通うため来日し、学業とアルバイトを両立しながら、このラーメン店での接客や調理補助を任されてきました。勤勉な勤務態度と、柔軟で明るいコミュニケーション能力は、他の従業員からの評価も高く、まさにお店にとって欠かせない存在になっていたのです。店主様は、彼を一時的な労働力ではなく、長期的に一緒に店舗を支える仲間として正式に迎え入れたいと強く希望しておられました。
しかし、留学ビザでは週28時間までという就労制限があり、卒業後は帰国を余儀なくされる見通しがあるため、このままでは店舗にとっても本人にとっても惜しい結果になってしまうことが懸念されました。そこで、店主様は「特定技能(外食業)」という新たな在留資格へ変更し、フルタイムの正社員として彼を正式に雇用する道を選ぶ決意をされました。
このような在留資格変更の手続きは、単に申請用紙を記入するだけではなく、過去の勤務実績や試験合格証明、雇用契約書、支援計画書など、幅広い分野にわたる書類作成が必要です。初めての申請となる店主様にとっては、何から準備すればよいか分からないことも多く、当事務所にご相談いただき、一括してフルサポートさせていただくことになりました。
行政書士のポイント解説
特定技能(外食業)への変更申請では、まず本人が「外食業特定技能1号評価試験」と「日本語試験(A2相当)」の両方に合格していることが必須条件となります。今回のケースでは、本人がすでにこれらの試験に合格していたため、合格証明書の取得から準備を開始しました。過去の勤務実績を証明する資料としては、出勤記録、給与明細、労働条件通知書などを収集し、留学生時代からの継続的な就労実績を丁寧に整理しました。
雇用主であるラーメン店側には、外国人雇用にあたって必要となる労働条件通知書と雇用契約書を新たに作成していただきました。これには、勤務時間、休日、残業の取り扱い、社会保険の適用、賃金の支払日など、すべて日本人社員と同等の条件であることを明記してもらい、適正な労働環境が整備されていることを客観的に示しました。
さらに、特定技能外国人の受け入れに際しては、生活支援や相談体制を含む「支援計画書」の提出も義務付けられています。そこで、当事務所では、日常生活で困ることがないよう、役所での各種手続き同行、銀行口座開設支援、日本語での生活相談体制、ゴミ出しルールや住宅契約の補助など、外国人が日本社会にスムーズに適応できるための具体的な支援内容を、店舗側と協議しながら計画書に落とし込みました。
今回特に注意が必要だったのは、店舗の経営状況に関する裏付けです。特定技能ビザでは、申請者本人のスキルだけでなく、雇用主が継続的に安定した雇用を提供できる体制かどうかも審査対象になります。小規模事業者であることを踏まえ、過去3期分の確定申告書、売上台帳、月次損益表などを整理し、コロナ禍以降の経営回復の見込みも含めて、補足説明書を作成しました。人員体制の変遷や、今後の売上拡大に向けた施策なども盛り込み、店舗としての成長性や雇用継続性を明確に示す工夫を行いました。
その結果、追加の資料請求もなく、申請から約2か月という比較的スムーズな流れで、「特定技能(外食業)」への在留資格変更が許可されました。本人のスキルと努力、そして店舗側の誠実な体制整備が、審査官にも十分に伝わったものと考えています。
解決イメージ
在留資格変更が許可された現在、対象の外国人スタッフはラーメン店の正社員として正式に雇用され、調理補助だけでなく厨房のメイン業務も任されるようになりました。これまでアルバイトとして積み重ねてきた経験と、日本語での円滑な接客能力を活かし、今では新メニューの提案などにも積極的に取り組んでいます。
お客様からも、彼の笑顔と丁寧な接客が好評で、地域に愛される店づくりの一翼を担ってくれています。何より、本人にとっても日本での生活を継続できたことが大きな励みとなり、今後のキャリアを具体的に考えるきっかけにもなっているようです。生活面でも安定した住居が確保され、店舗スタッフとの関係も良好であるため、業務への集中度が増し、仕事の質にも好影響を与えています。
店主様からは、「彼がうちにいてくれて本当に良かった」「将来的には店の中心的存在としてさらに活躍してほしい」との声をいただき、店舗全体が新たな一体感と希望に満ちた雰囲気に包まれています。外国人スタッフの力を活かした地域密着の店舗経営が、今後も広がっていくことを願ってやみません。