※本記事は、行政書士が実際に行う支援内容をもとに構成した【モデルケース事例】です。
類似の課題を抱える方にとっての参考となるよう、実務に即した構成としていますが、地域名・状況設定は一部仮定を含むことを、あらかじめご理解ください。
想定される背景と経緯
今回のご依頼者様は台湾出身の40代女性で、大学時代を日本で過ごされた経験があり、日本文化や地方の暮らしに対する強い関心をお持ちでした。近年は観光業の仕事を通じて再び日本を訪れる機会が増えていた中で、偶然立ち寄った静かな山間の地域に強く心を惹かれ、「都市部ではなく、自然に囲まれた場所で何か新しい挑戦ができないか」と考えるようになったそうです。
その地域には、古くからの建物が数多く残されており、近年ではインバウンド需要と地域資源を活用した観光ビジネスへの関心も高まりつつありました。ご依頼者様もまた、訪日外国人向けの宿泊施設として古民家を再活用する構想を温めておられ、現地の空き家バンク制度を活用して一軒の古民家物件を購入されました。
日本での起業にあたり、経営管理ビザの取得が必要となったものの、日本語での制度や行政手続きに対する不安が大きく、当初はどこから着手すべきか分からない状態だったといいます。そのような中で、現地自治体の紹介を通じて、当事務所へご相談をいただきました。
行政書士のポイント解説
経営管理ビザの取得では、単に起業意思があるというだけではなく、「事業の継続性」「現実性」「地域性」の3点が非常に重視されます。特に地方地域での開業においては、都市部とは異なる視点からの審査が行われるため、事前の書類構成と裏付け資料の準備が成否を分ける重要なポイントとなります。
まず事業計画については、対象顧客を訪日外国人観光客に定め、特に台湾・香港・欧米諸国からの個人旅行者をターゲットとしたゲストハウスの運営を想定しました。宿泊サービスの提供だけでなく、地元の食材を活かした食事体験や、地域の農業・文化に触れる体験型アクティビティの企画も盛り込み、サービス内容の差別化を図りました。料金設定、マーケティング方法、リスク管理も明記し、開業後3年間の損益見通しを含めた事業計画書を作成しました。
地域との結びつきを明示する資料としては、自治体とのメールのやり取り記録、地元農家との食材供給に関する契約書、地域イベントや商工会との協力体制に関する説明書を準備しました。また、改装予定の古民家の現地写真や工事前後の工程計画図、消防法・建築基準法に基づく用途変更の届出控えなど、現実に開業が進行していることを示す資料も添付しました。
資本金500万円の要件については、ご本人の自己資金に加え、台湾在住のご家族からの資金贈与を一部組み合わせて調達されていました。これについては、贈与契約書・送金記録・金融機関の残高証明・日本での法人設立時の登記簿謄本を用いて、資金の合法性と安定性を立証しました。
また、開業後の運営に支障が出ないよう、日本人スタッフとの連携体制や言語サポートについても申請書に明記しました。施設内の案内表示や宿泊者とのコミュニケーション方法、日常の運営を支える地元住民との連携など、定住・経営者としての生活基盤の安定性も含めて丁寧に説明することが求められます。
すべての資料が整った後、地方出入国在留管理局に対し「在留資格変更許可申請」を行い、約8週間後に無事に経営管理ビザが許可されました。都市部以外での開業事例としては非常に意義深く、今後のモデルケースともなり得る内容だったと言えます。
解決イメージ
初めてその地域を訪れたとき、空気の澄んだ景色と静かな雰囲気、人々の温かさに心を打たれました。ずっと都市の喧騒の中で働いてきた私にとって、そこはまさに「心のふるさと」のように感じられ、ここで暮らしたいという思いが自然に湧いてきました。
しかし実際に古民家を購入してビジネスを始めようと思ったとき、日本でのビザ取得や会社設立、行政手続きの複雑さに直面して、とても一人では進められないと痛感しました。そんなとき、行政書士の先生と出会い、初歩的なことから丁寧に教えていただき、安心して一歩ずつ進めることができました。
特に心強かったのは、地域の方々とのつながりを大事にしてくださった点です。単に書類を作るだけでなく、地元農家さんとのご縁をつないでいただいたり、自治体の方との打ち合わせにも同席していただいたりと、現地での信頼関係づくりにも深く関わってくださいました。
無事にビザが許可されたときには、感動して涙が出ました。これからは、私自身がこの素晴らしい地域の魅力を世界に発信する担い手として、ゲストハウスを通じて多くの旅行者と地域の人々をつなげていきたいと思っています。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。